第2話:歪みの向こうの相棒
 今日で三日目だ。この即席パーティーは、やはり機能していない。  通路に出れば空間が反転し、本来なら後衛を守るはずの自分の盾が、背後の黒魔術師を突き飛ばす形になる。ヒーラーは空間の歪みに恐れをなして後方で杖を振るだけで、前線まで加護が届かない。 「盾、遅い!」 「俺の詠唱の邪魔をするな!」 背後から飛んでくる、黒魔術師の罵声。自分は歯を食いしばり、盾を構え直す。自分を見下す彼らに、盾の役割など到底理解できまい。彼らの連携放棄、責任転嫁。その全ての尻拭いをさせられているのは自分だ。  自分にとっての唯一の救いは、あのシーフの動きだけだ。 彼女は言葉こそ交わさないが、空間の歪みを予測するように双剣を翻し、弓を弾く。黒魔術師が怯えて逃げ出す隙を、彼女が弓で敵を足止めし、自分が盾でねじ伏せる。 それ以外は、もはや視界の端で踊るだけの駒に過ぎない。  ……苛立ちで胸が焼ける。 なぜ、この程度のこともできないのか。なぜ、自分の地図を埋めるための行程に、こんな無能な連中が混ざっているのか。 あのシーフだけは、他の連中とは違う。彼女もまた、この狂った空間をただ淡々と、自分の技術だけで生き抜こうとしているように見えるからだ。  焚き火の時間がやってくる。 黒魔術師は疲れ果てて毒づき、ヒーラーは泣き言を漏らしながら眠りにつく。 そんな中、少女がまた静かにミルクをコーヒーに注いでいる。あのカフェオレの、甘く柔らかい香りが漂い始める。  自分は彼女に近づき、無言でカップを受け取る。 苦いコーヒーにミルクが溶け、カフェオレ色に変わっていく様子を、ただ眺める。 「……明日は、あの歪みを抜ける」 自分がそう告げると、少女は短く頷いた。 彼女とだけ連携が取れれば、残りの二人がどうなろうと知ったことではない。自分は自分のために地図を完成させる。それがこのダンジョンを歩く理由であり、全ての動機だ。  焚き火の火が、今日も護符を吸い込み、加護を吐き出す。 自分は手元のMAPを広げ、今日通過した歪みの修正を書き込む。 彼らの無能な動きのせいでMAPは汚れたが、あの少女の剣の軌道だけは、正確に記録した。  明日も、また景色を見て地図を描く。 彼女をどう利用するか、どうやって自分にとって都合の良い戦場にするか。 カフェオレの温もりがカップから伝わる。 自分はただ、そのことだけを考えながら、冷え切ったダンジョンの床に背を預けた。