第13話:始まりの出会い
 ダラーと出会う前、自分の世界は、地方都市の裏通りにある古びた道具屋のカウンターの内側だけだった。  店主の気まぐれで任された店は、狭く、常に薄暗かった。仕事は単純だ。他店よりも安く道具の値をつけ、仕入れ、客に性能を説明し、売り捌く。この狭い空間の全体を常に観察し、滞りなく回すこと。それが自分の全てであり、唯一の存在価値だった。人が怖く、視線に怯え、棚の傷を数えることだけが自分の唯一の平穏だった。商品の欠陥を見抜く観察眼は、悪意を事前に察知してやり過ごすための、自分を守る防衛本能でしかなかった。  自分はいつか、こんな閉じた世界から連れ出してくれる誰かが現れればいいと夢見ていた。だが、自分自身で何かを変えようと行動することはない、卑屈な男だった。  そんな狭い籠の中で、ダラーと出会った。彼女を一目見た瞬間、言葉にはできない衝撃があった。彼女もまた、自分の怯えた目の中に、自分と同じような「孤独」の気配を見つけたのではないか。  彼女はヒーラーでありながらデバフを操り、戦局を支配する戦術家だった。彼女が探していたのは、単なる戦闘要員ではない。彼女の考えを理解する観察眼、そして、何よりも彼女の指示を真っ直ぐに信じる「素直さ」。そして――何より、この過酷なダンジョンを共に歩むことを厭わない、孤独を癒やし合える存在。  「あんたのその細やかな気遣いは、もっと大きな仕組みの中で使われるべきね」 「私には、戦場という空間を、あんたがこの道具屋でやっているように『回せる』人間が必要なの」  彼女は自分の殻を壊すのではなく、彼女が思い描く「仕組み」の中へ、自分を滑り込ませようとしていた。自分はただ、カウンター越しに彼女の言葉を聞き、彼女が提示する未来が、今の自分よりもずっと「居心地が良い」ように思えていた。  数ヶ月が経ったある日、彼女は重たい革袋を抱えて店に現れた。中に入っていたのは、自分の体格に合わせた槍と、身体を保護するための革鎧一式。すべて彼女が選んだ、最高の下準備だ。  「これ、あんたの分。今日からあんたは、私の『仕組み』の要になる」  彼女はすでに店主と交渉を終えていた。断る選択肢など、最初からなかった。二人の間には、理屈を超えた、運命のような共鳴があったのだと思う。  「戦いなんて怖い。自分には無理だ」  そう呟く自分に対し、彼女は冷たくも優しい手つきで、槍の重みを自分の掌に教えた。  「大丈夫だよ。あんたには『観察眼』と、私を信じる『素直さ』がある。私が戦術を組み立て、あんたがそれを補佐する。この二人なら、この退屈な街のどこよりも効率よく稼げるんだから」  道具屋の店員だった自分の人生は、その日のうちに強制終了し、ダラーという仕組みの一部として組み込まれた。彼女が持ち込んだ装備を身に纏い、自分は彼女の背中を追って店を出た。  それが、自分の「冒険者」としての最初の一歩であり、彼女と生きる運命の始まりだった。