第53話:砕けた盾と、首都の空
 ギルド結成の手続きが無事に済み、役所の入り口で四人で手を合わせた。  「じゃあ、また一ヶ月後に。私たちの新しいホームでね」  そう約束を交わし、ここで二手に分かれる。ツツジとユーはメーヴェの指示通り、ギルドホールの賃貸契約と生活基盤の確保へと意気揚々と向かっていった。  自分とメーヴェは、再びあの熱気あふれる鍛冶屋へと戻ってきた。  ――結果から言うと、盾は砕け散った。  「……」  カウンターの上に無残に並べられた、黒い鋼鉄の破片。 自分はただ唖然とするしかなかった。あんなにも死線を潜り抜け、極限の集中力と血を吐くような思いで手に入れたあの苦労の結晶が、ただの鉄屑となって粉々に砕け散っているのだ。20%という数字の残酷さを、まざまざと見せつけられた。  絶句する自分の横で、メーヴェは破片の一つをひょいと手に取った。  「ダメだったか……。じゃあ、お姉さん。この破片はそっちで取っておいて頂戴」  申し訳なさそうに肩を落としていた窓口の女性が、不思議そうに首を傾げる。 「当店で、こちらの破片をお預かりすればよいのですか?」 「そ。もう一つ取ってくるわ。次の強化の時、このオリジナルの素材を混ぜ込めば、成功確率も上がるでしょ?」  自分は思わず目を丸くしてメーヴェを見た。 彼女は、またあのライオハルツに挑むつもりらしい。「いいのか?」と短く問いかける。彼女にとって、あんな命がけの死闘に再び無給で付き合う利点など何もないはずだ。  「だって、あたしたちはギルドの仲間でしょ?」  メーヴェはいたずらっぽく笑い、軽くウインクをした。 「一度踏破したダンジョンよ。敵の攻撃パターンだって完璧に覚えてる。今の私たちに負ける要素なんてないわよ」  彼女はまたあの死線をくぐり抜けるつもりなのだ。盾を手に入れるまで、何度でも。  「今のあたしの職はシーフ。欲しいものは絶対に手に入れるわよ。……それに、ギルドマスターへの貸しを増やすのもまた一興だわ」  彼女の底知れない優しさに、自分は静かに頷いた。 どうやら、彼女への借りをすべて返し終わる日は、まだまだ当分先になりそうだ。  「じゃあ、帰りの時間まで観光でもしてから戻りましょうか。あの重い盾がない分、今は身軽で動きやすいでしょ?」  鍛冶屋を出ると、メーヴェはすっかり観光客の顔になっていた。  「この辺りは職人街だから少し歩くけどね、すっごく美味しい『おばんざい』を出すお店があるの。いつも行列ができてるんだけど並ぶ価値はあるわ。あとね、美味しい羊羹のお店も近いのよ」  メーヴェは楽しそうに指を折りながら、かつて味わった首都の味を思い出しているようだ。  「お腹いっぱい食べ終わったら、有名な首都のタワーにでも上ってみる? 頂上まで、600段の階段が待ってるわ、盾がなくて良かったわね」  いつもなら人の多い場所や観光など遠慮する自分だが、今は不思議と心が浮き立ち、足取りが軽かった。彼女の楽しそうな提案に、素直に頷く。  「決まりね。それじゃあ、この首都エトレインの最高の景色を、ミリに見せてあげるわ」  メーヴェは弾むような足取りで歩き出す。自分は空っぽになった背中と、それ以上に軽くなった心を感じながら、活気あふれる首都の雑踏へと足を踏み出した。