第42話:開かれた死地と、神速の槍
 いくつもの狭く息苦しい通路を抜け、鋼鉄の壁を血と汗で濡らしながら、自分たちはついに飛空艇の最深部へと辿り着いた。  そこは、これまでの窮屈さが嘘のように開けた、巨大なホールだった。かつて騎士団が顔を揃えた大広間だろうか。  薄暗い空間の最奥、玉座のように積まれた瓦礫の上に、一つの巨大な影が鎮座していた。  身の丈をゆうに超える長大な槍と、分厚い大盾を構えた大男の亡霊。  擦り切れたマントと、重厚な装甲から漏れ出すどす黒い瘴気。言葉を交わすまでもない、あれが恐らくこの呪われた飛空艇「ライオハルツ」の主だ。  この広い空間なら、道中のように壁に阻まれて武器が振れないということはない。だが、それは同時に、あの規格外に長い槍のリーチを命がけで潜り抜け、鉄壁の盾の死角を強引にすり抜けなければならないことを意味していた。  自分たちがホールへ足を踏み入れた瞬間、背後の重厚な鉄扉が鈍い音を立ててゆっくりと閉ざされた。  逃げ場は、完全に断たれた。  それを合図にしたかのように、最奥の瓦礫の上で、大男の亡霊が静かに立ち上がった。  ――次の瞬間。  「!?」  風切り音すらなかった。  はるか遠くにいたはずの巨体がブレたかと思うと、一瞬にして距離を詰められ、自分の眼前に鋭い槍の穂先が突き出されていた。異常なまでの踏み込みの速度。あの重装備からは想像もつかない、神速の刺突だ。  反射的に身を捩り、大盾の縁でかろうじてその一撃を逸らす。  ギィィンッ!!と甲高い金属音と共に火花が散り、腕の骨が砕けそうなほどの重い衝撃が全身を突き抜けた。  だが、安堵する暇など一秒たりともなかった。敵は巨体に似合わぬ身軽さで槍を引き戻し、すでに流れるような連撃のモーションへと入っている。  「ミリ! もう始まってるわよ!!」  いち早く側面に展開したメーヴェの、鋭い叫び声がホールに響き渡る。  息を吸う間すらない。呪われた飛空艇の主との、絶望的な死闘の火蓋が、今、唐突に切って落とされた。