第14話:効率という聖域
 冒険者としての歩みは、ダラーが作り上げた極めて論理的な「育成と検証の計画」そのものだった。  最初は、町の周辺にある安全地帯での採取から始まった。野草を摘み、毒のない果実を選別する。ダラーは自分の「観察眼」がどのように植物の選別で発揮されるかを確かめ、自分は、摘んだ薬草が金貨に変わることに胸を高鳴らせた。  やがて、採取だけでは物足りなくなった彼女は、自分たちを「未知の魔物」が徘徊する獣道へと引きずり出した。 「ナノ、あれを見て。あの魔物は動きに予備動作がある。今、あんたが槍で牽制すれば、私が背後からデバフを叩き込める」 彼女の指示は常に的確だった。自分は彼女が組み立てた戦術パズルの歯車となり、技術を吸収していった。解体作業すらも採取と同じ手つきで行う自分を見て、彼女は満足そうに微笑んだ。  だが、彼女の「稼ぎ」への執着はそこで止まらなかった。二人は地方の山岳遺跡、湿地の洞窟、忘れられた鉱山と、各地のダンジョンを回り続けた。ダラーはヒーラー兼戦術家として、あらゆる環境で敵の分断と効率的な狩りを検証し続けた。自分は彼女の指示通りにバフを展開し槍を振るい、彼女の検証を補佐した。  しかし、どの場所も彼女の眼鏡には適わなかった。 「ここは敵の湧きが不安定で、移動のロスが多すぎる」 「ここのトラップは解除の手間に見合わない。稼ぎの仕組みとして効率が悪すぎるよ」  各地を転々とする日々は、彼女にとっての「最適解を探す検証」だった。彼女がもっと稼げる場所を求めて瞳を輝かせる限り、自分もまた「次こそは」と期待し、彼女の影を追った。  そしてついに、自分たちは目的地である【騎士団墓地】の入り口に立った。 ここだけは違った。死霊の湿った吐息、緻密で殺意に満ちたトラップの山。だが、一度パターンを覚えてしまえば、採取の手順とセットで完璧にルーチン化できる。  「ここよ、ナノ。他と比べても、ここなら他の場所の三倍の効率で金貨が湧き出るよ」  彼女がそう言ったとき、自分は心から安堵した。もう知らない場所へ行かなくていい。ダラーが検証し尽くしたこの「聖域」で、ただ同じことを繰り返していればいいのだと確信できたからだ。  外の世界がどれほど広くても、ダラーが「ここが正解だ」と指し示す場所こそが、自分にとっての全宇宙になった。入り口という閉ざされた空間で、自分たちは機械のように狩りを続けた。彼女が魔法を唱え、自分が槍を突き出し、合間に薬草を摘む。その一連の流れが完璧に噛み合った時、自分は自分が何者であるかを忘れることができた。  ダラーが仕組みを作り、自分がそれに最適化される。この「効率的な搾取」のサイクルこそが、自分たちの日常のすべてだった。