第28話:書き換えられた地図
ガンナーは、苛立ちを抑え込むように一度深く息を吐き、自分の胸を叩いた。
「仕切り直す。いいか、お前はここから俺の指示にだけ従え。これでも元はタンクだ。ダンジョンでの立ち回りは分かっているつもりだ」
彼は手短に状況を整理する。このパーティーには範囲攻撃ができる職がいない。各個撃破に特化した編成であり、大群を引き連れるような戦術は、このメンバーでは自殺行為に等しかった。
「このダンジョンはトラップだらけの不人気物件だ。まともなマップすら流通しちゃいない。報酬だって雀の涙……この爺さんが騎士団の歴史調査という個人的な執念で来ているだけだ」
ガンナーが全員を見渡す。ヒーラーはすまなそうに肩を落とし、「生憎、シーフもいないからトラップの解除も手探りだ」と呟いた。
その瞬間、自分の中で何かが弾けた。
騎士団墓地。かつてダラーと共に歩き、彼女の「理」を刻み込んだ場所。トラップの性質も、道筋も、すべて体に染みついている。自分は迷いなく、懐から使い古した地図を取り出した。
「……ここなら。トラップの解除も、ルートも、少しなら自分にもわかります」
そう言って、ガンナーに頭を下げた。彼が地図を広げた瞬間、三人の空気が変わった。
「なんだこの地図は……。トラップも、採取ポイントも、敵の配置まで書き込まれている。これを、お前が書いたのか?」
ガンナーの驚愕の声に、ヒーラーも老いた目を丸くする。さっきまでの「ヌーブ」を見るような蔑みは、僅かに消えていた。
「驚いたな。……よし、方針を変えるぞ」
ガンナーは鋭い眼光でこちらを見た。
「トラップを解除しつつ先導しろ。マップの追記も忘れずにな。戦闘は極力回避、戦闘時の立ち位置や組み立ては俺が指示する。お前は盾としての役割に集中しろ。分かったな?チームはお前の盾を道標として付いていく。それがダンジョンでのタンクだ。」
かつてダラーと二人で歩いた道。あの頃は彼女の背中を追うだけだった場所が、今は三人の冒険者を導くための道として目の前に広がっている。
自分は大きく頷いた。
ただの「釣り餌」ではない、自分自身の足で歩くタンクとして。二度目の騎士団墓地へ、深く、深く足を踏み入れた。