第44話:完璧なるユニゾン、そして零距離の死闘
肺が焼けるように熱い。
激しく息が上がる。これほど互いの呼吸を合わせ、極限の集中力を維持してなお、まだ足りないというのか。
騎士団長が誇る、圧倒的な基礎力の差。
強引に侵略を進めても、あと一歩、決定的な一歩の距離がどうしても埋まらない。大男の槍と盾は、まるで不可視の壁のように自分たちの行く手を阻み続けていた。
だが、死線の真っただ中で、奇妙な感覚が私を包み込んだ。
いつしか、自分のすぐ隣にメーヴェの気配があった。視線を交わすまでもなく、二人の肩がピタリと並ぶ。
シュウウッ!!
二人のわずかな隙間を、大男の容赦のない長槍が突き抜けた。肉をかすめるほどの風圧。しかし、恐怖はなかった。
自分たちは、完全に「同時」に地を蹴って前へと飛び出した。
大男が迎撃のために突き出してきた巨大な盾。自分は自らの大盾を半回転させるように滑らせ、その盾の斜面をなぞるようにして、死角へと潜り抜ける。大男が素早く槍を引き戻すその刹那のタイミングに合わせ、自分の横に、再びメーヴェがピタリと肩を揃えて滑り込んできた。
言葉のない、完璧なるユニゾン。
(攻撃を受け止めるたびに距離を離されるのなら、自分自身もこの瞬間だけは、回避に特化するしかない……!)
本来の「攻撃型タンク」としての我を捨てる。メーヴェの変幻自在なステップに、大盾の動きを完全に融け合わせるのだ。互いが互いの呼吸に合わせ、一つの影となって猛嵐の中を突き進む。
そして、ついにその瞬間が訪れた。
ガツッ、と重い手応え。
泥臭く踏み込んだ一歩。構えた大盾の表面が、初めて大男の分厚い胸甲に直接触れた。
「――今よッ!!」
メーヴェの鋭い声。盾が触れたわずかな衝撃を合図に、彼女の身体がコマのように鮮やかに回転した。大盾の影から飛び出した双剣が、大男の装甲の隙間を深く切り裂く。
遅れてなるものかと、大盾の裏から剣を突き出し、大男の脇腹を抉るように切りつけた。
二人で同時に猛攻を仕掛けながら、流れるように大男の背後へと回り込む。
「ハァアアアッ!」
背後を取られた大男が、物凄い風切り音とともに長槍を真横へと振り払ってきた。まともに喰らえば身体が両断される。自分たちは同時に上体を深く屈めてその一撃を頭上でやり過ごすと、立ち上がりざま大男の巨体へ向かってタックルをかますように、再び強引に距離を詰めた。
離れてしまえば、あの槍の餌食になるだけだ。
この距離。互いの肌が触れ合うほどの「ゼロ距離」以外に、この怪物に勝つ術はない。
ガキィンッ! と、至近距離で火花が爆ぜる。
生前、幾多の戦場を潜り抜けてきたであろう騎士団長の亡霊の動きに、初めて明確な「乱れ」が生じた。
二人の、命を懸けた完璧な連携が、ついに鉄壁の王の身体へと届き始めていた。