第9話:盾なき日々
「……これだけか」
カウンターに投げ出された報酬袋の軽さに、溜息が出る。 以前なら安全圏の採取地を回れば路銀になった。だが、今はそのすべてを「低級BOT」の群れが占有している。効率的に素材をかき集めるだけの人型機械たちが町の周辺を掃除し尽くしたせいで、自分たちが手を出す隙間なんてどこにもない。稼ぎ口は完全に干上がった。
鍛冶屋の親父のところへ顔を出したが、鼻で笑われただけだ。 「実績もねぇ奴に、俺の打った鉄は渡せねぇよ」 BOTどもに食い荒らされたこの街では、ギルドの評価が全てだ。自分がどれだけ盾の代わりとして強引に衝撃を受け流し、腕力でねじ伏せてきたかなど、親父には知ったことではない。
「……またネズミ狩りね。次行く?」
背後でメーヴェが尋ねる。 彼女に情緒はない。現状を憂うのではなく、今の閉塞をどう効率よく抜けるか、それだけを考えている。
「……ああ。次の路地へ向かう」
自分は腰の鉄剣を握り直す。 本来なら盾で受け流すべき衝撃を、今はすべて、この腕力だけで受け止めている。自分は決して筋肉質ではない。だが、この腕に宿る力は、ひたひたと敵の連撃をねじ伏せるためにある。盾がない分、腕に過負荷がかかる。限界まで張り詰めた手首や前腕の筋が、盾をよこせと悲鳴を上げている。
「……ミリが盾を失ってからは、あたしの弓も完全に腐ってるわよ。前線で守る人間がいなけりゃ、矢を射る場所すら確保できないからね」
メーヴェは弓の弦を力強く弾き、音を鳴らした。 冷徹な指摘だ。彼女は自分を責めてはいない。盾を失ったこの現状も、すべては攻略の過程に過ぎない。
「……少しでも早く盾を構えなよ。あんたが壊れたら、あたしの計算も狂うのよ。共倒れは御免だから」
彼女はそう言い捨てて、先にギルドの出口へと歩き出した。 自分は砕けた盾の幻影を背負い、その背中を追う。
自分たちの地図は、まだ真っ白だ。 誰が何と言おうと、この腕力で道をこじ開ける。盾を買い戻し、あのダンジョンに再び挑むまで血を流し続けるだけだ。
【注釈:低級BOTについて】 BOT使いが配置する、素材採取に特化した無機質な機械群。安全地帯の資源を機械的に刈り取るため、人間が稼ぐ余地を奪い去っている。機体保護のため安全な場所にしか配置されないが、その存在が冒険者の死活問題を招いている。