第82話:敗者の盾と予期せぬ道
奇妙なことだった。
あの日、彼女たちは自力で『天動機』を使い、下層へと降りてきたのだという。莫大な費用をかけて派遣した救助隊が使っていた天動機とは全く別のもので、誰も予期しないルートからの生還だった。
劇的な全員の帰還から、すでに1週間が経っていた。
一番最初に目を覚ましたのはジークであった。当然のことながら、すぐさま彼を囲むようにして厳しい聞き取りが行われ、まだ万全ではない状態で、彼はなんとか言葉を紡いでいた。
一体どこにいたのか。どうやって生き延びたのか。何があったのか。
矢継ぎ早に飛ぶその問いの多くに、ジークはただ「わからない」と答えた。「知らない階層にいた」と。
自分にとって、真実などどうでもよかった。生きて帰ってきてくれた、それだけで十分だったのだ。
しかし、世間はそうではない。彼のその曖昧な証言は、エターナルカルテットの評判をさらに貶める結果となった。
「ありえない」「救助隊すらそんな階層は見ていない」「極限状態で夢でも見ていたのではないか」「奴らの失態を隠すためにホラを吹いているのだろう」
ひどい言われようだった。それでも、ジークは一切反論しなかった。
そして今日も、自分は彼らの莫大な医療費を稼ぐため、ヤガミとともに市場に立っている。
「大丈夫ですか、マスター?」
ヤガミが気を使い、小声で声をかけてくる。
周囲から自分に向けられる視線は、以前のような友好的なものではなかった。明確に「敗者」を見る目だ。あちこちから、隠そうともしない失笑が聞こえてくる。
自分たちは賭けに負けたのだ。
その事実を、市場の空気という現実が容赦なく突きつけてくる。
すっかり嘲笑の的となってしまった、自分のこの黒い盾。これが物理的な攻撃だけでなく、周囲の冷たい声や視線まで防いでくれればいいのにと、本気で思ってしまった。
だが、自分はタンクなのだ。だから、耐えなければならない。
現実に心身を消耗され切る前に、ただひたすらに耐えて、仲間のためにリソースを作る。今の自分を動かしているのは、その痛切な使命感だけだった。
そんな折、ジークから病室へ呼び出された。
向かう道すがら、いつだったかヤガミが言っていた言葉を思い出す。
『全てを捨てたくなった時は、ジークを頼ってください』と。
診療所の静かな病室。ベッドの上で、ジークはまず、自分に対して深く謝罪を口にした。
そして、彼が静かに切り出した提案は、自分が全く予期せぬものだった。
それは、彼が昔所属していたギルドへの『統合』という道であった。