第27話:灰色の記憶、剥き出しの現実
濃い霧に飲まれる騎士団墓地の入り口には、見慣れない三人の冒険者が待っていた。
慈愛を感じさせる表情の老いたヒーラー、不機嫌そうに銃身を弄ぶ赤髪のガンナー、そして苛立ちを露わにする槍使い。
「募集を見てきました。タンクです」
そう告げると、老いたヒーラーが小さく頷いた。
目の前に広がる墓地の入り口。かつてダラーと共に潜った場所。彼女の背中を追い、魔法陣の美しさに息を呑んだ、あの思い出深い場所だ。しかし、今の自分の目には、ただの煤けた石造りの遺跡にしか見えない。彼女の姿も、彼女の「理」も、ここにはもう存在しないのだ。
「……では、行こうか」
ヒーラーの顎の合図に従い、自分は先頭に立って一歩を踏み出した。
入り口付近に蠢くのは、死霊と野犬程度。以前の自分なら何の問題もなく処理できたはずの相手だ。自分は迷いなく、彼女と回った記憶を辿りながら、大きく外周を走り始めた。
効率を追い求めるだけの野良パーティーで叩き込まれた通り、敵を最大限に引きつけるために、群れを大きくかき集める。
その直後だった。
「何をやってるんだ、お前!!」
槍使いの怒号が墓地内に木霊する。
見れば、ヒーラーが悲鳴を上げて後方へ転がり、ガンナーが銃を構えて硬直している。敵の群れは今や、パーティー全体を飲み込まんとするほど膨れ上がっていた。
「死ぬ気か! 一度撤退だ!!」
誰かの叫びに、反射的に身体が動く。
自分は大群を抱えたまま敵を引き剥がし、彼らの背中を追って墓地を駆け出した。どうにか入り口の外へ飛び出し、息を整える。しかし、安全を確保した彼らが自分に向けたのは、安堵の表情ではなかった。
三人は怒りをあらわにして詰め寄ってくる。
「おい、何をやってる? お前、初心者か?」
「なぜ大群を連れてくる、殺す気か!? これだからフィールドしか経験のない奴は……」
「ヌーブだな、こいつ。なんでこんな高難度ダンジョンに初心者が混じってるんだ」
「だから言っただろ、募集要項を厳しくしろって……!」
彼らの言葉は、鋭い刃物のように胸を刺した。
自分には何も言い返せなかった。ダラーの教えてくれた「理想」と、彼らが求める「現実の攻略」。そのあまりの乖離に、自分はただ立ち尽くすしかない。
(違ったのか……)
自分の行いが間違っていたのか。いや、違う。自分には、ダラーが教えてくれた「理論」すら、今の自分には正しく再現できていない。
自分はただ、過去の亡霊を追って、彼女の場所で空回りしているだけ。
自分が何一つとして成し遂げられない「役立たず」であることを、改めて冷酷な現実として突きつけられた。