第71話:天動機の律動と、金色の誘惑
 エントランスの中央に描かれた1つの巨大な円。  その縁には青いランプが静かに明滅し、中央には異質な操作盤らしきものが鎮座している。  これが、噂の『天動機』。  まずはこのエントランス、第1階層の仕掛け(ギミック)を解かなければならない。予定通りなら、すでに西口のツツジたちも攻略を開始しているはずだ。  この天動機を動かせるチャンスは、1日二回。10:00と16:00だけ。もし定刻にこれが動かなければ、それは西口の部隊が仕掛けの解除に失敗した証。つまり、東西の連動が崩れたことを意味し、即時撤退の合図となる。  「1日二階層って、随分かかりますね。踏破まで2週間ですか?」  ガンナーのデルタが、金髪のツインテールを指先でいじりながらジークに問いかけた。  「お前は急ぎたいだろうが、これは万全の体制を整えるためだ。1日2階層のペースなら、未知のギミックに戸惑って失敗するリスクも最小限に抑えられる」  ジークが天動機を指差しながら、冷静に諭す。焦りは死に直結する。この塔のシビアなルールを熟知している彼だからこその判断だ。  「まずはこの階層のギミックからですよね。僕らはいつでも行けますよ」  魔術師セラとヒーラーのトキ夫妻は、ぎゅっと手を繋ぎながらジークの背後に立った。  「では、行くとしようか。第1階層に敵は出ない。奥にある回路を繋いで、ここへ戻ってくるだけだ」  ジークが先導し、あたしたちはその後をついて歩き出した。  見たこともない異世界の紋様。そして、無機質な機械がそこかしこに配置されている。一つひとつじっくり観察していけば天動機の起動時間には間に合わないと分かっているのに、あたしはその景色に思わず言葉を失った。  見上げれば、天井からは金色の断片がいくつも吊るされている。  その金属片が、美しくもどこか怪しげな輝きを放っていた。まるで、足を踏み入れた者たちの心を試すように。  「このダンジョンは、階層ごとに景色も劇的に変わる。ぼーっとして置いていかれるなよ」  前を歩くジークが、振り返りもせずにあたしたちへ釘を刺す。  『好奇心に殺されるな』  下見の時にジークが言っていた注意点を思い出し、あたしは小さく息を吐いた。なるほど、こういうことか。もしミリがここにいたら、間違いなくあの金色の断片の美しさに目を奪われ、スケッチしようとして不用意に近づいていただろうな。  あたしは気を引き締め、視線を天井の黄金から正面の暗がりへと戻した。  10:00の起動時刻まで、後戻りはできない。