第48話:圧倒的な熱量と、消え去った影
 珍しいことに、メーヴェは前線に出ようとせず、後方からの弓撃に徹していた。  いつもなら真っ先に懐へ飛び込んでいく彼女が、どこか遠慮がちに戦っている。恐らく、新しく加わったツツジとユーの能力を測っているのだろう。  そんなメーヴェの視線など微塵も気に留める様子もなく、ツツジは豪快に巨大な戦斧を振り回していた。  「オラオラァ! どきやがれッ!」  その恵まれた体格から繰り出される破壊力は抜群だった。自分が大盾で受け止め、引きつけておいた小鬼(ゴブリン)たちの群れを、ツツジは強烈な横一文字の薙ぎ払いで一網打尽にしていく。頑丈な皮鎧ごと肉を叩き割る、圧倒的なパワーだ。  さらに、後衛に控えるユーの立ち回りも完璧だった。  ツツジが強引に踏み込んで生傷を負うたび、あるいは自分の盾の隙間から攻撃がかすめるたびに、的確なタイミングで回復魔法が飛んでくる。  「はーい、おにぃ、ヒールだよぉ うふふ」  「おう! 助かるぜユー!」  ユーがその台詞を口にするたびに、隣で弓を構えるメーヴェが心底ゲンナリした顔をしているのが見えたが、戦闘における安定感は文句のつけようがなかった。  (この二人、おちゃらけて見えるが……かなりの実力者だ)  地方都市の泥臭い戦いでは、ここまで洗練された連携や、無駄のないリソース管理ができる冒険者には滅多に出会えなかった。やはり、首都を目指して田舎から出てきたという言葉に嘘はないらしい。  「ガハハ! 百人力だなこりゃ! タンクがしっかり敵を止めてくれるから、背中を気にせず暴れ回れるぜ!」  ツツジがさらに調子を上げて張り切り、斧を肩に担ぎ直してガシガシと森の奥へ進んでいく。  自分たちは、その二人が放つ圧倒的な熱量に引っ張られるようにして、驚くほどのハイペースでダンジョンを突き進んでいた。  かつて、都会への恐怖に押し潰され、無様に逃げ出した、あの呪わしい野獣の森。  木々の隙間から差し込む木漏れ日を見上げながら、自分はふと、不思議な感覚に包まれていた。  (――怖く、ないな)  4人というパーティーの形を取っているからだろうか。それとも、ライオハルツの死線を越え、この背中に盾という確かな自信があるからだろうか。  かつて自分の心を支配していたあのドス黒い恐怖の影は、ツツジの快活な怒号と、メーヴェの呆れたようなため息の中に、いつの間にか綺麗に掻き消されていた。