第25話:餌場の孤独
初めてのフィールドパーティーは、地獄のような洗礼だった。
「掲示板」で見つけた「タンク急募」の文字に縋るように応募した自分は、その瞬間から冒険者たちの罵声を浴びる対象となった。
「おい、ヌーブ! そんなチンタラ動いてんじゃねえよ!」
背中に食い込む盾が重い。敵の攻撃を引き受けるための「タンク」という役割を、自分はただの「釣り餌」としてしか理解できていなかった。いや、パーティーの連中にとって、自分はまさにそれ以外の何物でもなかったのだ。
「もっと敵をかき集めてこい! 1匹ずつ釣ってどうするんだ、全部まとめて連れてこいと言っただろ!」
怒鳴り声が響く。次々と襲いかかる敵の群れに、足が震える。ダラーが教えてくれた「理論」では、敵のヘイトを維持するのは盾の構え方や位置取りだと理解しているつもりだった。だが、慣れない装備と、何より自分の中にある「人への恐怖」が、正確な動きを阻害する。
盾を打ち鳴らされ、死角から罵倒が飛ぶ。
逃げ場はない。逃げれば彼女が遺した「呪い」から逃げることになる。だから、自分は傷だらけになりながら、無数の敵を引き連れて走る。走る。走る。
「……こんなの意味があるのか?」
夕暮れ時、ボロボロになった身体で討伐報酬の小銭を受け取る。
パーティーの連中は自分を振り返りもせず、次の酒場の計画を立てている。結局、自分がいようがいまいが、彼らは強者だけで回していけるのだ。
(タンクなんて、本当はいらないんじゃないか)
街へ続く帰路、重い盾を引きずりながら、ふとそんな思いが脳裏をよぎる。
ダラーは「誰かから必要とされる」と言ったけれど、現実はどうだ。ただの消耗品。死んでも代わりがいくらでもいる、都合のいい「餌」。
彼女の幻影を追って、彼女が望んだ姿を演じているけれど、それは彼女が望んだ「タンク」ではないのかもしれない。
冷えた身体に、昼間淹れたコーヒーの残り香を思い出す。あの温かな味は、もう二度と戻らない。自分は何のために盾を構えているのか。その答えを見失ったまま、今日も孤独な影が街へと消えていく。