第70話:天動機の天秤と、極限の軽量化
 下見から1週間。  あたしは最後の準備を整えるため、いつもの馴染みの鍛冶屋を訪れていた。  目的は、装備の調整だ。あの黒紋塔が「推奨8人」とされている最大の理由は、階層移動に使う異世界の機械『天動機』のシビアな重量制限にある。  塔は東西2つの区画に完全に分かれており、最上階に至るまで道が交わることはない。それぞれの区画にある天動機の上昇ボタンを同時に押さなければ階層移動はできず、さらにそのボタンは、各階層の厄介な仕掛け(ギミック)を解かなければ作動すらしないのだ。  つまり、求められるのは東西2パーティによる各階層の完全な同時攻略。そして、あのシビアな重量制限をいかにして「出し抜くか」にある。  今回、あたしたちは推奨8人のところを、万全を期して10人で挑む。各天動機を動かすためには、どうにかして人間1人分の重さをカットしなければならないのだ。  そのための装備調整。すなわち、限界までの軽量化である。  「……前衛もレザー防具にするのか? 正気か?」  馴染みの鍛冶屋の親父が、あたしのオーダーシートを見て顔を曇らせた。  「後衛の装備をさらに軽量化するなんざ聞いたこともないぞ。なあ嬢ちゃん、あの黒紋塔を裸で登るつもりか? 間違いなく死ぬぞ」  「全員じゃないわ。重装タンクも勿論同行するし」  あたしはカウンターに肘をつき、笑って答えた。  「でも、あたしとジークはレザーでいい。全て回避すればいいのよ」  「大剣使いのジークか……。まさか嬢ちゃんのギルドに移籍していたとはな」  親父は呆れたように深いため息をついた。  「あのジークがレザーを着るとは……。そこまでして、5人目が必要なのか?」  「ええ。ジークは『万全を期する』って言ってたわ」  「どうだかな。オレは、4人がフルプレートを着込んで手堅く行った方がマシだと思うがな」  「冒険者でもないのに、随分食ってかかるわね」  あたしが少し意地悪く言うと、親父は苦笑いしながら肩をすくめた。  「嬢ちゃんのところはお得意様だからな。死なれちゃ困る。……まぁ、やれるだけのことはやってやるよ。それで、他のメンツはどうした? 今日はいないのか?」  「連携の最終調整よ。各階層のギミック指導。今頃、ジークがみっちり叩き込んでるわ」  「噂の天動機か……」  「そういうこと。全29階層。つまり、28種類のギミックを頭に叩き込んでいかなきゃいけないの」  「はっ、冒険者の頭で足りるかね?」  親父の軽口に、あたしたちは顔を見合わせて笑った。  黒紋塔の頂上へ至る道は、もうすぐそこまで来ている。  極限まで削ぎ落とした装備と、研ぎ澄まされた連携。準備は、これで整った。