第87話:継がれる黒盾と未知への呪い
 ギルドホールの壁には、巨大な黒い盾が掲げられている。  彗星の如く現れ、そして消えていった、伝説とも言えるギルド「エターナルカルテット」。  この傷だらけの大盾は、彼らが確かにこの世界に存在したという、揺るぎない証明だった。  ギルドマスターであるダンケルハイトは、壁の盾を静かに眺めながら、一人物思いに耽っていた。  黒紋塔。ジークが見たという未知の階層。  我々は、そこを目指すべきなのだろうか。  あの日、解散したエターナルカルテットからこのギルドへと移ってきたメンバーたちは皆、その未知なる場所への到達を熱望している。そして、彼らの熱にあてられたのか、ギルドの古参メンバーたちもまた、その「未知」という抗いがたい属性に強く惹きつけられていた。  謎の階層について、帰還した各人はそれぞれ全く違う内容を口にする。  辻褄が合わない不条理な空間。だが、彼らは「確かにそこにいたのだ」と確信を持って語る。  そして、他の誰もその光景を信じようとしないからこそ、「ならば再度そこを目指し、自らの目で証明してみせる」と、彼らは笑うのだ。  それはまるで、「ミリオンダラー」が残した最後の呪いのようだった。  ダンジョンの理を解き明かそうとした狂気にも似た熱。その呪いに、今や誰もが取り憑かれはじめている。ダンジョンの研究者をはじめ、名だたる大手ギルドたちが、その謎を解き明かそうと再び黒紋塔へと挑み始めている。  (この黒い盾は、いずれ再びダンジョンに戻る)  ダンケルハイトの胸の中には、確信にも似た思いがあった。この盾は、ただ壁の飾りとして朽ちるべきものではない。彼らが求めた未知の先へ、再び誰かの手によって掲げられる日が必ず来る。  不意に、ギルドホールの重厚な扉が開いた。  「おはよう、ギルドマスター!」  快活な声と共に、ジークをはじめ、エターナルカルテットから移籍してきたメンバーたちが揃って顔を出した。彼らの表情に暗い影はない。それぞれが頼もしい武具を携え、伝説を懐かしむように、しかしそれに縛られることなく、新たな冒険への活気に満ち溢れている。  「ダンケさん、今日こそ塔に行こうぜ!」  「もう、おにぃは今度はもっとしっかり準備しなきゃー」  「速く攻略したいんすけどー!」  速く塔へ行きたいと急かすツツジに、デルタ、そしてそれをたしなめるユー。賑やかなやり取りに、ホールが一気に活気づく。  ダンケルハイトは彼らの方へ向き直り、ふっと口元を綻ばせた。  「おはよう。……それじゃあ、今日も知の探求といこうか」  壁の黒い盾が見守る中、彼らの新たな旅が、またここから始まろうとしていた。