第63話:永遠の宝と、冷たい炎
メーヴェの心は、ずっと晴れないままだった。
大手ギルドの財務担当だったヤガミが、新興の「エターナルカルテット」を志望した理由はただ一つ。 ――『ミリオンダラー』というブランドのカリスマ化。
そのために彼が提示した唯一の条件が、「四六時中。ギルドマスターミリの全ての時間を自分に預けろ」というものだった。ヤガミは先を見ている。ただの仲良し集団ではなく、このギルドを名実ともに本当の『永遠』に変えようとしているのだ。
そして、ユーが。あのユーが、ヤガミを強く推した。 「いつか壊れてしまう関係なら、永遠に保存できたほうが良い。一番美しい思い出として、心に保管できるから」と。
あたしは、その言葉に押された。 そして、彼を手放した。
(いつか別れが来るのなら、美しい思い出に変えたい。永遠に残る名前にしたい……)
ユーのその切実で臆病な気持ちが、あたしにも痛いほどわかってしまったからだ。
ため息をつきながら、手元の名簿に目を落とす。あたしの今の仕事は、彼らが戦いやすいようにパーティー(PT)を振り分けることだ。
* ワイヤーソード使いの剣士、クマ
* スピード狂のガンナー、デルタ
* 元アイドル志望の魔術師、シロ
* 槍と盾を扱う異色のタンク、ワダツミ
* 無口なヒーラーのトキと、その夫である魔術師のセラ
* 真っ黒に日焼けしサングラスをかけた初老の剣士、ジーク
ここにツツジを加えた8人。そして、場合によってはあたしとユーが加わる。これから攻めるダンジョンの特性に合わせて、最適な編成を考えなければならない。
面接の際、別のギルドで副マスターを務めていたという歴戦の剣士ジークは、静かに、だが自信に満ちた声でこう言い切った。
「1年で、全員を『黒紋塔(こくもんとう)』へ連れていく」
この首都で最高難易度を誇る、推奨8人PTの伝説のダンジョン。地上634メートルにも及ぶその途方もない塔を、ジークは踏破させると約束したのだ。
『ミリオンダラー』という圧倒的なカリスマ。 そして、『黒紋塔』を踏破する最強のメンバー。
その二つが揃ったとき、このギルドは本当の意味で永遠となる。 そうすれば、あたしはその美しい思い出にすがって生きていける。死ぬまで、あたしはこの輝かしい記憶にすがるのだ。
彼と背中を預け合い、命がけで笑い合ったあの時間を、永遠に凍結する。 それこそが、シーフとして生きるあたしが最後に欲する『永遠の宝』。
メーヴェは手元の名簿から顔を上げ、その瞳の奥に静かで冷たい炎を宿らせた。 この心を、永遠に凍らせるために。