第41話:鋼鉄の閉鎖空間と、泥沼の消耗戦
このダンジョンが不人気であり、いまだ未踏破である理由が、身をもって理解できた。
道中を徘徊する敵――亡霊と化した騎士団員たちは、生前と変わらぬ堅牢な甲冑で身を固め、高度な武術の冴えを未だに失っていなかった。こちらの攻撃は分厚い装甲に弾かれ、相手の剣撃は正確に急所を狙ってくる。極端に戦いづらく、一戦一戦がひどく長引いた。
さらに厄介なのが、この飛空艇内部の「異常な狭さ」だ。
通路は生い茂った植物も相まって人一人が通るのがやっとの幅しかなく、前衛と後衛が息を合わせるような連携など物理的に不可能だった。大盾を構えた自分が前線を塞ぎ、メーヴェとスイッチしながらどうにか1体ずつ倒していくのが精一杯だ。
この狭さでは、槍のような長物の武器は壁につっかえて振り回せない。かつての自分が槍使いのままここに来ていたら、最初の通路で死んでいただろう。敵との距離が近すぎるため、魔法使いや弓使いといった遠距離職も、詠唱や構えの隙を狩られて終わる。
(ここは、近距離職にしか進めないダンジョンか)
攻撃特化のタンクである自分と、双剣を扱うシーフであるメーヴェ。あるいは純粋な戦士くらいしか、この鋼鉄の閉鎖空間を生き残ることはできない。
メーヴェは、自分と壁の間にできたわずかな隙間から器用に矢を通し、時には自分の脇下から双剣を突き出している。「敵の背後に回る」という戦法すら封じられ、攻略はじりじりと泥沼化していった。
とにかく敵が硬く、強すぎる。生命力も精神力も、リソースの消費量が尋常ではない。四方八方を鋼鉄の壁に囲まれた空間では、常に緊張が抜けなかった。
「……休憩ね」
メーヴェが、飛空艇の一室――かつての船室だったと思われる小部屋で、ドサリと腰を下ろした。
自分もそれにならい、部屋の入り口に大盾を立てかけると、手早く焚き火の準備を始める。いつものように護符を火にくべると、焦げた匂いと共に、結界の安心感が部屋を満たした。
「かなりの難易度ね、このダンジョン。でも、攻略できないわけじゃない。……ただ、ひたすらに難しいだけ」
メーヴェが慣れた手つきでカフェオレの準備を始めながら、ふうっと息を吐き出す。
「そうだな」
自分は短く頷いた。
「こんな敵もいるのね。元騎士団員だから攻撃も防御も隙がないし、なかなかこちらの攻撃が通らないわ」
「……このダンジョンの恐ろしさは、そこだ」
甘い香りの立つカップを受け取りながら、自分はこれまでの戦闘を分析する。
「敵1体を倒すのに時間がかかりすぎる。長引けば長引くほど戦闘の音が響き、増援が来てしまう。狭い通路での終わりのない連戦が続くんだ」
「かといって、通路が狭すぎて強引に横をすり抜けることもできないわね。……困ったわ」
恐らくやらなければならないのは騎士団員の亡霊100人斬り。そして最後に待ち受けるのは騎士団長の亡霊だろう。
メーヴェがカフェオレをすすりながら、少しだけ眉を下げる。だが、その瞳の奥の光は決して死んでいなかった。むしろ、この理不尽な難易度をどう乗り越えるか、思考を楽しんでいるようにすら見える。
「とにかく、少しずつ進むしかない。ここの攻略は長丁場になりそうだ」
自分はカップの両手で包み込み、冷え切った鋼鉄の部屋の中で、次の死闘へ向けて静かに熱を蓄えた。