第75話:天を覆う密林と、転がる重戦車
 塔の中はすべて通路や部屋のような屋内構造だと思い込んでいた。だから、まともに身動きが取れないような大型の魔物はいないはず——。  その甘い見通しは、この階層に足を踏み入れた瞬間に完璧に打ち砕かれた。  「はぁ、はぁ……っ、ここまで来れば、流石に追ってこないわね」  あたしたちは、巨大なアルマジロの化け物に追いかけ回された末、命からがら逃げ延びた巨木の下にたどり着いていた。  見上げれば、塔の天井であるはずの場所には禍々しい雷雲が渦巻いている。足元は滑る岩場と深いぬかるみ。突然密林に降り出したスコールのような大雨に、あたしたちは完全に足止めを食らっていた。  「ジーク、この階層のギミックはなんだったかしら?」  あたしは前髪から滴る雨水を払いながら、隣のジークに声をかけた。  「ジャングルのどこかに隠されている、光り輝く宝玉を見つけ出して台座に収める。内容自体は、単純な宝探しだ」  「はぁー……」  ジークの答えを聞いて、デルタが大きなため息をつきながら、濡れた愛銃の銃身をいじり始めた。  「あのデカブツアルマジロさえいなければ、簡単な宝探しなんですけどね。やっぱり、あいつは回避するしかないんですか?」  「ヤツが体を丸めて回転している間は、どんな攻撃も弾かれる。手の出しようがない」  ジークが両手を丸めるジェスチャーを交えながら、冷静に解説する。  「だが、突進させて壁や大樹にぶつければ、その衝撃で回転が止まる。その隙を狙えば、こちらの攻撃は十分に通用するぞ」  「それを、この大雨の中、滑る足場の上でやれってことよね?」  あたしが眉をひそめて言うと、ジークはサングラスの奥の目を細めて頷いた。  「そういうことだ。足場が悪い以上、まともに交戦を仕掛けるのは避けた方が無難だろう?」  「そうね……。この大雨が、さっさとやんでくれればいいんだけど」  「案ずるな。この階層の雨は周期的なものだ。あと10分程度で一度あがる。それよりも、今はこうして体力を回復し、体温を温存することだ。ここで冷えれば、次の階層のパフォーマンスにも響くからな」  「いやっすねー。雨にも追われて、あのでっかいアルマジロにも追われるなんて、踏んだり蹴ったりっす」  ジークのあまりに冷静な言葉に、デルタが不満げにペロッと舌を出した。  「文句を言うな。こうして安全に息を整える休憩時間があるだけ、マシだと思え」  「……へいへい、そっすねー」  ジークの正論にデルタが肩をすくめる。  その時、ジャングルの頭上を覆っていた厚い雲の隙間から、パッと眩しい光が差し込んできた。  「塔の中で太陽が出るなんてね……。ジークの言う通り、そろそろ雨も上がりそうよ」  さっきまで激しく葉を叩いていた雨粒が、目に見えて小さくなっていく。湿った空気が、太陽の熱で白く蒸気となって立ち上り始めた。  「よし、雨が上がるぞ。行くぞ」  ジークの声に、全員がぬかるみから力強く立ち上がる。  天動機のタイムリミットまで、残り3時間。  遮る雨が消えた密林で、あたしたちの過酷な宝探しが、ようやく本格的に始まった。