第50話:幸運の星と、結成への決意
パチパチと焚き火がはぜる音と、ミリがスケッチブックにマップを書き込むカリカリというペン先が擦れる音だけが、夜の森に心地よく響いている。 毛布にくるまったユーとメーヴェは、すでに静かな寝息を立てていた。
その穏やかな光景を眺めながら、大柄なバーサーカーであるツツジは、改めて「俺は本当に幸運な男だ」と噛み締めていた。
ここから遙か北東にある、荒れた海峡に面した北海の離島。うらぶれた漁師町で生まれたツツジは、賑やかな六人兄弟の長男だった。 両親や手のかかる弟たちに自分のデカい背中を自慢するため、彼は故郷を出た。ツツジの町から、はるか遠い首都へ行こうなどという物好きはこれまでに一人もおらず、旅立ちの日は村を挙げての大酒盛りとなり、まるで地方のスターのような熱烈な見送りを受けたものだ。
そんな華々しい旅立ちからわずか数日後。本島へわたる連絡船で、ぽつんと宙を見上げぼーっとしていたユーという少女に出会った。 極端な笑い上戸であるこの小さなヒーラーと意気投合したツツジは、コンビを組んでいくつもの街を渡り歩いてきた。前衛で敵を受け止めるタンクがいない二人旅であっても、危険なダンジョンさえ避けてフィールドの街道を歩く分には、何の問題もなかった。
ユーは、ツツジが語る故郷の弟たちのくだらない話を、いつも腹を抱えて笑い転げながら聞いてくれた。そして、ノリを合わせて「おにぃ」と呼んでくれる、彼にとって非常に貴重でありがたい存在だった。 その無邪気な声で呼ばれるたび、ツツジは長男としての責任を自覚し、遠い故郷の潮の香りを思い出すことができるのだ。
そして今、最大の難所である首都の直前で、ミリとメーヴェというベテランのタンクとシーフに出会った。
「借金取りと負債王」などと名乗る奇妙な二人組だが、その戦闘における連携は文字通りずば抜けている。彼らの放つ凄まじい技量は、ツツジがこれまで見てきた誰よりも優れており、命を預けるのにこれ以上ないというとてつもない安心感があった。
(俺は絶対に、幸運の女神に愛されてるな……)
ツツジは確信した。自分は、決定的な場面で「人」に恵まれる運命なのだと。
理屈ではない奇妙な感覚だが、ツツジの直感が告げていた。この縁は、間違いなく長く続くものだ。そして、決して手放してはいけない類のものだと。 育った環境も、背負っているものも全く違うこの四人は、おそらく出会うべくして出会ったのだ。これぞまさに、幸運の女神のおぼしめしに違いない。
故郷で帰りを待つ弟たちに、胸を張って手紙を書いて自慢してやろう。俺は、この最高のメンバーと一緒に首都の土を踏んだのだと。
そして、ツツジは炎を見つめながら熱く思う。 この奇跡のような縁を確かなものとして繋ぎ止めるため、俺たち四人は「ギルド」を作るべきだと。
(決めたぜ。俺たちは、なるべくしてなる『永遠の四人』だ)
ツツジは己の中で固い決意を抱き、ミリの描く地図から、やがて来る明日の踏破へと視線を向けた。 この野獣の森ダンジョンを見事踏破し、首都の光を浴びたその時。必ず全員に告げよう。俺たちで、ギルドを組まないかと。