第56話:新しい家族と、約束の帰還
 約束の1ヶ月は、本当にあっという間に過ぎ去っていった。  首都でのギルドホールの賃貸契約や、水やガスといったライフラインの契約手続き。乗合馬車を使って何度も役所に足を運び、ようやくすべての事務手続きがひと段落したのは、つい昨日のことだ。  ツツジさんは「こういう小難しいのは苦手なんだよな」と頭を掻きながらも、出来る限りの範囲で手伝ってくれた。それに、頼れる「お兄ちゃん」として、日々の買い出しや当面の生活資金稼ぎのクエストもしっかりとこなしてくれている。  ――同棲していた相手と手ひどく破局し、一人でぼーっと傷心旅行をして回っていたあの頃。  彼氏の勧めではじめたヒーラーもやめようかな、なんて考えていた。  あてのない旅の最中、本島に戻る船の中で、私はひょんなことからツツジさんと出会った。  初対面にもかかわらず、いきなり「お兄ちゃんと呼んでくれ」と言われた時はさすがに度肝を抜かれた。けれど、六人兄弟の長男だという彼の大らかさは、末っ子として育った私にとって、久しぶりに家族と繋がったような、不思議で温かい感覚をもたらしてくれたのだ。  それから二人で旅をして、首都の直前であの凄腕の二人組と出会い、ここへやってきた。  いよいよ、ギルドとしてこの場所で四人の共同生活が始まろうとしている。  (それにしても……約束の1ヶ月はもう過ぎているけど、あの二人はいつ帰ってくるのかな)  静かになった真新しいホールで、箒を片手にそんなことを考えていると。  ドンドンドンドンッ!!  にわかにホールの外が騒がしくなり、玄関の扉が遠慮なく叩かれた。  「戻ったわよ! ほら、ボーッとしてないで荷物入れるの手伝ってちょうだい!」  扉の向こうから響いてきたのは、間違いなく聞き覚えのある凛とした声だった。  どうやら、あの二人が地方都市での荷造りを終えて、無事に首都へ戻ってきたらしい。  「あ、はいはーい! 今開けますー!」  急いで玄関へ向かうと、奥の部屋から飛び出してきたツツジさんが、すでに満面の笑みで扉を開け、大量の荷物を抱えた二人を出迎えているところだった。  「おおっ! 待ってたぜ二人とも!」  「ちょっとツツジ、これ重いんだから早く受け取ってよね。……あ、ユー。お留守番ご苦労さま」  荷物をツツジさんに押し付けたメーヴェさんが、私を見つけてパッと顔を輝かせた。彼女の隣には、かつてよりさらに重厚で禍々しいオーラを放つ大盾を背負ったミリさんが、静かに、けれど少しホッとしたような表情で立っている。  「あ、ミリさんの盾、無事に強化できたんですね!」  「ええ、バッチリ強化済みよ。これで、首都のダンジョン巡りも全く問題ないわ! さっそく明日から行くのかしら? そっちの準備はどう?」  メーヴェさんが、長旅の疲れも見せずにワクワクした声で尋ねてくる。私は胸を張って、いつものようにふわりと笑って答えた。  「うふふ、大丈夫ですよー! 面倒な事務処理も、ぜーんぶ終わってますー!」  「そ。よくやったわね、ありがとう」  私の報告を聞いて、メーヴェさんが心底嬉しそうに、そしてとても優しく笑いかけてきた。  こうして、四人の荷物と笑い声が混ざり合う中、「エターナルカルテット」の本当の日常が幕を開けたのだ。