第46話:注目の陰、ざわめく街
 ライオハルツ初踏破の噂は、うっすらとではあるが、この地方都市の隅々にまで流れ始めていた。地方紙の本当に隅の方、目立たない欄ではあったが、自分とメーヴェの名前も活字となって載った。  呪われたライオハルツの盾を背中に背負い、自分はメーヴェに指定された馬車の待ち合わせ場所へと向かっていた。  道中、通り過ぎる人々からジロジロと視線を向けられる。それがどうにも居心地が悪かった。  視線の原因は、間違いなく背中にあるこの大盾だ。黒い鋼鉄に刻まれた異質な紋様は、嫌でも他人の目を引いてしまう。  そして今日、この盾をさらに強化するため、自分たちはここを発ち、首都へと向かうことになっていた。  「野獣の森を抜けなくも首都には行けるんだけどね。でもあそこが一番の近道だし、一種の通過儀礼みたいなもんだし。何より、未強化でも、その盾の性能試してみたいもんね」  昨日、メーヴェはそんなことを呟いていた。  どうやら彼女は、純粋にダンジョンを巡ることそのものが好きでたまらないらしい。  「あ、やっときたわね」  目的の場所に到着すると、停まっていた馬車の窓からメーヴェがひょっこりと顔を出した。  彼女の手には、小さく折り畳まれた紙の切れ端が握られている。  「見てよこれ、あたしたちの名前が載ってるのよ! 『ミリとメーヴェがライオハルツを初踏破』……だって! すごくない?」  メーヴェは地方紙の切れ端を、まるで宝物でも扱うかのように大事そうに馬車の中へと持ち込んでいた。  「新聞に名前が載るなんて、あたし、昔地元でやった『ナマズ掴み取り大会』以来だわ」  (……なんだその大会は)  一瞬、奇妙な疑問が頭をよぎったが、あまりにも嬉しそうなメーヴェの様子に遠慮して、自分は何も言わずに黙っていた。  彼女がそれほどまでに無邪気に喜んでいる一方で、自分の心は一向に落ち着きを取り戻せずにいた。  ほんの僅か、こうして街の人間から注目を浴びるだけで、胸の奥がざわついて居心地が悪い。  泥水をすするような日々を経て、昔よりは人に対する恐怖心も減ったと思っていた。それなのに、今の自分はこの街に対して、何か肌にまとわりつくような、気持ちの悪い衣擦れのような感覚を感じ始めていた。  それは、これから向かう「野獣の森」への忌避感か、あるいはその先にある「首都」という存在が、かつてのトラウマを呼び覚まそうとしているからなのか。  自分は小さく息を吐き、馬車のステップに足をかけた。