第54話:六度目の死線、師範との手合わせ
「ヴァンヘルにケルアイク、エトレイン地下水路、ガルゴンに黒紋塔……あと、どこがあったかしら」
パチパチと爆ぜる焚き火を囲みながら、メーヴェが温かいカフェオレを片手に、思いつくままにダンジョンの名前を挙げて数を数えている。
首都を離れてから、すでに2週間が経過していた。
ここは、あの因縁のライオハルツの最終ホール前。……信じられないことに、自分たちがここへ足を踏み入れるのは、これで6度目となる。
あれほど苦戦した道中も、今となってはもはや慣れたものだ。
「首都から片道2時間で行けるダンジョンだけでも、少なくとも20ヶ所近くはあるわね。そこを全制覇するのも面白いわ。まずは地下水路かしらね? 首都西側の登竜門ともいえるダンジョンで、あたしが最初に首都に入った時に通った、思い出のダンジョンよ」
メーヴェは本当に楽しそうだった。あの一品ものの盾を再びドロップさせるまで、今回で6度目となる過酷な周回も、彼女は全く意に介していない。
「ダンジョンだけじゃなくて、フィールドにいる大型の魔獣を相手取るのも楽しそうね。ミリも、バジリスクを1人で倒してみる? この時期は子飼いのバジリスクが多いから、いつもよりずっと凶暴で面白いわよ」
メーヴェがいじわるそうに微笑む。
普通なら、あのライオハルツを何度も周回するなど、精神的にも肉体的にも荷が重すぎる。だが、不思議なことにメーヴェと一緒なら、それすらも楽しく思えた。
また、あの鉄壁の騎士団長に挑む。
(今度はどんな技を試そうか。どう動けば、あの巨体にこちらの攻撃がより深く通用するだろうか)
かつてはあれほど絶望を感じた相手だったが、何度も死線を越えるうちに、恐怖はすっかり薄れていた。むしろ今は、まるで圧倒的な力を持つ「師範」に手合わせを願うような、そんな奇妙な高揚感すらこのダンジョンにはあった。
「さて、準備ができたら行きましょうか」
メーヴェが手元のカフェオレをぐいっと飲み干し、立ち上がる。双剣の柄を軽く叩き、不敵な笑みを浮かべて自分を振り返った。
「今度は、しりとりしながらにしてみる?」
「……痛い目にあっても知らないぞ」
そんな軽口を交わしながら、自分たちは再び、あの強大なライオハルツの亡霊が待つ重い扉へと手をかけた。