第39話:絶壁に眠る銀色の棺
 あの夜、酒場で聞いたメーヴェの話をまとめると、こうだ。  目的地である「飛空挺ライオハルツ」は、街から徒歩で2日ほどの場所にある竜の口渓谷に眠っている。かつてこの地で名を馳せた「ダーテン騎士団」が運用していた飛空艇であり、その内部には今や魔物と化した騎士団の亡霊たちが住み着いているという。  騎士団――。  その響きに、かつて騎士団墓地を共に歩いた、調査に熱心な老ヒーラーの顔が思い出された。彼もまた、己の執念を燃やしてこの場所を訪れたのだろうか。そして、あの墓地でダラーと共に過ごした日々の記憶。どうにも、自分は騎士団という存在に奇妙な縁があるらしい。  ライオハルツ内部には、遺跡にありがちなトラップは少ないそうだ。しかし、生前の装備をそのまま身につけた凶悪な魔物たちが徘徊している。ただでさえ凄惨な墜落事故の現場という忌避される属性もあり、ここを訪れるのはよほどの狂人か騎士団マニアくらいなものだという。  道中、竜の口渓谷の険しい獣道を進みながら、自分は彼女の言葉に深く納得していた。  これほどまでに道が悪ければ、誰も寄り付かないのも当然だ。  そして何より、ここは誰も最深部へ到達した者がいない「未踏破ダンジョン」である。  だからこそ、最奥には手付かずの遺物が眠っている可能性がある。ただし、相手は実戦を重んじた騎士団の飛空艇だ。金銀財宝の類ではなく、当時の貴重な資料や、強力な武具が数点残されている程度だろうとメーヴェは推測していた。  切り立った岩場を抜け、とうとう自分たちはライオハルツの威容をこの目で捉えた。  蔦がびっしりと絡まりついた銀色の巨体が、不気味な闇の瘴気を垂れ流しながら、巨大な崖の隙間に無残に挟まっている。ひしゃげた装甲の内部からは異様に成長した樹木が突き出し、無機質な鉄と自然の崖との境界を侵食して埋め尽くしていた。そこだけが、世界から完全に切り離されたような異質な空間だった。  「ミリ、あれがライオハルツよ。……想像以上の荒廃具合ね」  自分は黙って頷いた。  崖に辛うじて挟まっているだけの巨体。いつ崩落してもおかしくないほど土台の安定性がないあのダンジョンに、たった二人で挑むのだ。道中の魔物の強さも加味すれば、踏破はおそらく数日がかりになるだろう。  「よし、行きましょう!」  メーヴェが両手でパンッと自分の頬を叩き、気合を入れる。  振り向いた彼女の瞳は、死地へ向かう恐怖など微塵もなく、隠しきれない未知への好奇心で爛々と輝いていた。