第47話:登竜門の出会い、妙な二人組
野獣の森は、首都から見てこの国の東側に住む冒険者たちにとって、いわば「登竜門」のようなダンジョンらしい。
ここを突破できれば、首都でも十分に通用する。それは首都へ入るための通過儀礼であり、己の実力を測る格好の力試しの場でもあった。
馬車を乗り継いで数年ぶりにやってきたその場所は、自分の記憶にあるよりもずっと開けていて、どこか明るく見えた。
道中、退屈しのぎに延々としりとりをさせられたが、メーヴェは相変わらず上機嫌だ。そんなに地方紙の端っこに名前が載ったのが嬉しいのだろうか。彼女はひらひらと舞うような軽い足取りで、ダンジョンの入り口へとさしかかる。
「早く早く! 小手調べと行こうじゃない」
そんな軽口を叩きながら。
――野獣の森。
かつての自分が、押し寄せる都会への恐怖に耐えかねて逃げ出した場所。
今もあの時と同じように、自分は怯えているのだろうか。そんな不安が心のどこかに少しだけあった。だが、あの奇妙な視線に溢れ、居心地の悪くなった街に留まっているよりはマシだ、と自分に言い聞かせる。
「おーい!」
突然、背後から野太い声が響いた。
「あんたら、ちょっと待ってくれ! 二人か? なら、pt(パーティー)を組んでくれねえか?」
振り返ると、そこには大きな戦斧を背負った大柄な男と、その背後に隠れるように立つ小柄な少女の姿。ガチャガチャと鎧を揺らし小走りで近づいてくる。
「おれはツツジ。で、こっちがユーだ。見ての通り、バーサーカーとヒーラーのコンビだ。よろしくな!」
「よろしくね、うふふ」
ユーと呼ばれた少女が、愛想よく笑いながら頭を下げる。
突然の勧誘に困ってメーヴェを見ると、彼女もまた怪訝な表情を浮かべて二人を見つめていた。
「あたしはメーヴェ。で、こっちのタンクはミリよ。……いきなり声をかけてきて、なんでptを? あたしたちに何かメリットでもあるのかしら?」
ツツジと名乗るバーサーカーが両手を上げる。
「メリット? ここは推奨4人だろ? そっちも二人なら、ここで組むのが互いに都合がいいだろうに。それに、俺たち二人は田舎から出てきたばかりで、このダンジョンにも詳しくないんだ。……なあ、あんたのその背中の盾、きっとベテランだろ?」
大柄なバーサーカー、ツツジが自分の背負うライオハルツの盾を指差す。
「そんなことはない」とすぐに否定したが――なるほど、他人の目から見れば、この禍々しいレアドロップの盾は「ベテランの証」に見えるらしい。
「ま、いいわ。その代わり、足手まといになったり邪魔したりしないでね」
メーヴェがふぅとため息をつき、提案を受け入れた。推奨人数に届いておいた方が、安全に盾の性能を試せるという算段もあるのだろう。
「よっしゃ、よかったなユー! これでいけるぞ!」
「やったね、おにぃ!」
「……おにぃ?」
メーヴェが不審そうに二人を見比べる。
「あんたたち、兄妹なの?」
「違うよー、うふふ。ツツジさんが『お兄ちゃん』って呼んでくれって言うから」
「おう! あんたらも遠慮なく『おにぃ』って呼んでくれていいぞ!」
「……いきましょ」
メーヴェは一瞬で眉間に深い皺を寄せると、それ以上言葉を交わすのを拒むように、さっさとダンジョンの中へと足を踏み入れてしまった。
「あ、おい! 待ってくれ!」
ツツジたちが慌ててその後を追う。自分も苦笑しながら、大盾の重みを確認して歩き出した。
こうして、自分にとって人生二度目となる、因縁の「野獣の森」の攻略が始まった。