第51話:地獄の番犬と、永遠の四人
 首都へと繋がる野獣の森の最深部。そこを守っていたのは、地獄の番犬ケルベロスだった。 三つの頭を持ち、それぞれの口から灼熱の地獄の火炎を放つ巨大な怪物だ。  開幕と同時に自分は地を蹴り、盾を打ち鳴らして三つの頭のヘイト(敵意)を完全に確保する。そのまま強引にボスの背後へと回り込み、後衛にケルベロスの無防備な背中が見えるよう立ち位置を調整した。 変則的な三つ首の連撃タイミングに合わせきれず、何度か鋭い牙に噛みつかれたが、ここぞという完璧なタイミングでユーからのヒールが飛んでくる。 背中を預けられる、なんという安心感だろうか。  側面ではメーヴェが双剣を展開し、舞うように番犬の命を削り取っていく。 そして反対側からは、ツツジが巨大な斧を振り下ろし、骨を砕く致命的な一撃を与え続けていた。 即席で組んだ四人とは思えないほど、その連携は確かなものだった。互いの長所が完全に噛み合い、苦戦の余地など全くない。  数十分程度の激戦の末、番犬は大きく悲痛な唸り声を上げ、ついに地に伏せた。  「おーし、楽勝!」 ツツジが斧を掲げて声を張り上げる。 「これくらいなら余裕ね」 メーヴェも双剣をしまいながら、涼しい顔で相槌を打った。その後ろでユーが「やったー!」と無邪気に喜んで飛び跳ねている。  自分は手元のライオハルツの盾を眺めながら、「少しは強くなったかもしれないな」と静かに実感していた。  「――注目!!」 最深部の地図を描き足していると、ツツジが突然、空気を震わせるような大声を張り上げた。  「俺たちで、ギルドを結成しないか! ここで別れるには、…あまりにも惜しすぎる縁だ。名前は『エターナルカルテット(永遠の四人)』! 首都に着いたら、即ギルド結成の事務手続きをしたい!」  ギルド……? 自分は驚いて、メーヴェと顔を見合わせた。 確かに、自分とメーヴェを繋いでいるのはただの「治療費の負債」という縁しかない。その借金を払い終えてしまえば、関係はそれで終わり。自分はまた一人に戻るのだ。 ――それが今は何故か、ひどく寂しいことのように思えた。  メーヴェは自分の目を見ると、ふっと笑って「そうね、いいわよ」と短く返事をした。 ユーも「楽しそうだねー、いいよー」といつも通り笑っている。  「よーし、決まりだ! でもミリさん、あんたがギルドマスターをやってくれ!」 「自分が、ギルドマスター……?」 「ああ! ベテランのあんたが先導してくれれば安心だ。この四人で、首都のダンジョンを全部制覇しようじゃないか!」 ガハハと笑いながら、ツツジが自分の背中をバンバンと強く叩く。  ギルドマスターなんて大役、自分に務まるのだろうか。  「じゃあ、結成手続きは鍛冶屋に行ってからでもいい? 先にその盾の強化をしたいの」 戸惑う自分をよそに、メーヴェがツツジにそう持ち掛けた。 「おう、いいぞ! やったぜ、お兄ちゃんは嬉しいぞ!」  ツツジは満面の笑みで、首都へと続く光の差す出口へ向かって歩き出す。 ユーとメーヴェも苦笑いしながらそれに続いた。 眩しい首都の光へと向かう三人の背中を見つめながら、自分はギルドマスターという響きへの不安を抱えつつも、胸の奥で確かに芽生え始めた「わくわくする感覚」を抑えきれずに歩みを進めた。