第59話:破竹の勢いと、一億の資産
 首都周辺のダンジョン攻略は、まさに破竹の勢いで着々と進んでいった。  かつては高貴な身分であったという貴族の成れの果てが潜む『ヴァンヘルの屋敷』では、アンデッド化した亡霊の主に対して、ユーの回復魔法が特大の浄化ダメージとして機能し、彼女の大活躍によって難なく撃破した。  麒麟にも似た神々しい魔獣が眠る『ケルアイクの封印地』では、一切の刃を通さない黄金に輝くケルアイクの重装甲を、ツツジがバーサーカーの膂力と戦斧で強引に叩き割り、辛くも勝利を収めた。  そして、無数の魔物が群を成して押し寄せる『ガルゴンドーム』では、四人で背中合わせの円陣を組み、自分とツツジで敵の波をせき止めながら、メーヴェが双剣の華麗な舞で敵を文字通り殲滅し尽くした。  向かう所敵なし。どのダンジョンでも自分たちの連携は冴え渡り、苦戦らしい苦戦をすることはなかった。  結果としてレアドロップも順調すぎるほどに集まり、気がつけば安アパートのようなギルドホールの床には、足の踏み場もないほどに武具の山が積み上がっていた。  武具が溜まっては、週末に四人で手分けして首都の取引場(マーケット)に持ち込み、相場を見極めて売り払う。  ここ数週間は、ひたすらその繰り返しだった。  そして、ある日の夜。  自分は食卓の中央に、ギルド口座の通帳をことりと置いた。  「……1、10、100、1000……ん? 0が何個だ?」  通帳を覗き込んだツツジが、震える指で桁を数え始める。  「えー、すごいですねー!」  横から覗き込んだユーが、無邪気に目を丸くして感嘆の声を上げた。  「0が8つ。まさか、結成して数ヶ月で資産が1億を超えるなんてね」  メーヴェがカフェオレのカップを置きながら、呆れたような、それでいて誇らしげな笑みを浮かべる。  「い、1億!?」  ツツジがガタッ!と椅子を鳴らして飛び上がった。  「嘘だろ!? うちの漁師の親父の年収だって500万だったぞ!?」  「ま、これが首都の相場価格ってやつね。需要の高いレアドロップを適正価格で捌けば、これくらいにはなるわ」  メーヴェは落ち着いた様子でツツジをなだめると、こちらへ視線を向けた。  「で、ミリ。どうする? これだけの資産があれば、全員の武具を最高級品に新調することもできるし、この手狭なギルドホールを引き払って、もっと広くて綺麗な一軒家に引っ越すこともできるわ。マスターの決断に従うわよ?」  自分は腕を組み、深く考え込んだ。  ツツジも、ユーも、メーヴェも。全員が黙って、自分の意思決定を待っている。  ギルドマスターとしての、初めての大きな決断だった。  「……全員の、装備刷新に使おう」  顔を上げ、三人の目を見てはっきりと告げた。  「これからさらに難易度の高いダンジョンに挑むことになる。装備を整えれば攻略も楽になるし、何より全員の命に関わるリスクを確実に減らせるはずだ。引っ越しは、その後でも遅くはない」  自分の答えに、メーヴェは満足そうに口角を上げた。  「決まりね。それじゃあ明日は、全員で職人街へ向かうわよ」  「おう! 最高の斧を買ってやるぜ!」  「やったー! 可愛いローブ探そうっと!」  ツツジが力強く拳を突き上げ、ユーが嬉しそうに両手を叩く。  頼れる仲間たちとの明日の買い出しに胸を躍らせながら、自分は通帳をそっと引き出しへとしまった。