第15話:雪に閉ざされた約束
この街は冬になると雪深くなる。一日の半分が闇に閉ざされるこの場所では、光の加減ひとつで稼ぎが大きく変わる。けれど、そんな閉鎖的な環境だからこそ、他所からの冒険者は寄り付かず、この墓地は私と彼だけの独壇場になっていた。
彼は、ここが世界のすべてだと思っている。 私が教え込んだ手順、私が構築した効率、そして私という絶対的な拠り所。それさえあれば、彼は一生、この凍てつく墓地で満足して暮らしていけるだろう。
けれど、私にとってここは「ただの踏み台」でしかない。
この地方都市の空気は澱んでいる。私の世界はもっと広い。あの大都会には、かつて私を切り捨てた父がいる。私がどれだけ効率よく資産を築き、戦術を磨き上げているか。あの大都会という戦場で、私の「仕組み」こそが最も洗練されていることを、父の目の前で証明したいのだ。
私は、彼を壊さないように、慎重に「次の場所」への準備を進めている。
「ここなら、他の場所の三倍の効率で金貨が湧き出るよ」
私がそう言ったとき、彼は凍えるような外の世界を忘れたかのように、心底安心した顔をした。その無垢な瞳を見ていると、時々、胸の奥が少しだけ痛む。彼は私の仕組みの一部として、誰よりも完璧に機能してくれる、最高の駒であり、唯一の理解者だ。
そして私は、彼との「老後」まで計算に入れている。 この街で蓄えた金貨は、ただの浪費にはしない。あの大都会で父に認めさせ、事業を動かし、彼と私が安全圏から世界を眺められるだけの資産を確保する。彼は、私が描く人生というダンジョンの攻略ルートを共に歩む、かけがえのない存在なのだから。
「見て、お父様。これが私の作った最高傑作よ」
大都会へ乗り込んだ時、私は必ず彼を父に紹介する。ただの道具屋の店員に過ぎなかった彼を、父の目を見張らせるほどの「戦術の要」に仕立て上げたのは私だ。彼の観察眼と、私の戦術。その二つがあれば、大都会で成り上がることは難しい話じゃない。
彼はどこまでいっても私のものだ。雪の季節が過ぎ去るのを待ち、あの光溢れる場所へ躍り出る。そこで彼がどんな顔をするのか、父が彼という駒を見て何を言うのか。そして、すべてを成し遂げた後、彼と二人で穏やかに暮らす未来が、私には手に取るように分かる。
今はまだ、この冷たい墓地で牙を研ぐ時間。すべての準備が整ったとき、私たちはこの地方都市を脱ぎ捨てて、あの大都会へと躍り出る。彼は何も知らず、ただ私の背中を追いかけてくるだろう。 それでいい。彼には私の背中さえ見えていれば、それで十分なのだから。