第29話:盾は、ただの壁ではない
「敵の背後に回れ! そうだ、敵の背中をこっちに向けさせろ! 挟み撃ちの形を作れば後衛のリスクは最小限になる。わかったな?」
ガンナーの鋭い指示が、墓地の静寂を切り裂く。
自分は盾を構え、その指示通りに敵の側面へと滑り込んだ。狙い通り、敵は自分の背後を見せ、ガンナーと槍使いの射線に晒される。
「ヘイトを意識しろ、右、右、左の順で押し込め! わかるな? 斬って、斬って、盾で押す。相手に攻撃の隙を与えるな!」
指示は的確で、何より合理的だった。
かつてダラーと共に潜ったあの場所で、彼女が杖先で教えてくれた魔法陣の「理」が、今、戦術という形をとって自分の中で再構築されていく。厄介な仕掛けも、彼女の教えを思い出せば、解除の糸口は見えた。
攻略は信じられないほどの速度で進んでいた。
ふと、ガンナーが声を低くして言った。
「絶対に避けられない攻撃というものがある。それに耐えるためのリソースを意識しろ。わかるな? 体力は常に8割以上を維持、コンボを忘れるなよ」
彼は一度、攻撃の手を止めてこちらを見据えた。
「いいか、ただ耐えるだけのタンクなんて、これからの時代には不要だ。攻めて、攻めて、攻撃で相手をコントロールして後衛を守る。わかったな?ただ立っているだけのタンクなんてカカシにも劣る」
その言葉は、自分の中で凝り固まっていた「ただの釣り餌」という概念を、音を立てて砕いた。
(耐えるだけじゃない。攻めるための……盾)
敵の攻撃を盾の縁で受け流し、その勢いを利用して敵の重心を崩す。
ダラーが自分に託した「タンクになれ」という言葉の意味が、少しずつ、熱を持って理解でき始めていた。自分はただ盾を構えていただけではない。戦況そのものを、自分の立ち位置で支配しようとしていたのだ。
自分の盾が、初めて「意思」を持って戦場に立っている。
背後の仲間を守りながら、敵の隙を突き、戦線を切り拓く。
――ああ、自分にもできるかもしれない。
ただの消耗品ではない、彼女の隣に立っていた頃と同じように、このダンジョンを自分自身の力で攻略していくタンクに。
「わかった。……次は、どう動けばいい?」
自分は確かな手応えを感じながら、次に現れる死霊の群れへと、再び盾を向けた。