第16話:積み重ねた一年
 ダラーと墓地に籠りきりになってから、季節が一周しようとしていた。  秋の終わり、冷たい風が吹き始めた頃から、自分たちのルーチンはさらに研ぎ澄まされていった。最初はただ、ダラーの背中を見て、彼女が指示する魔法陣の隙間に槍を突き出すだけだった。けれど、来る日も来る日も墓地へ通い続けるうちに、自分の中で何かが変わった。  死霊の群れを捌くたびに、槍を握る手に以前とは違う重みが乗る。特に実感するのは腕力の上昇だ。かつては、死霊が纏う濃密な「霊的な障壁」や硬質な怨念の層を突き抜けるのに力の込めどころを迷い、槍先が弾かれることもあった。だが今では、真っ向から槍を突き入れるだけで、その障壁を容易く粉砕できる。戦うたびに着実に、そして力強く成長を実感していた。  「ナノ、風向きが変わった。死霊の湧きが鈍る。今は無理に攻めず、採取の時間を優先して」  「分かってる。左の墓碑の影から来る個体は、自分が槍で釘付けにする。その間に採取を終わらせるよ」  いつの間にか、彼女が次に何をしたいのか、どう動けば最も効率がいいのかが身体に染み付くようになっていた。そして、採取の対象もまた、広がっていった。  最初は薬草を見分けるだけだった。けれど季節が巡る中で、自分は墓地の地層に埋もれた鉱石にまで目を光らせるようになった。  「これも持って行く。ただの石じゃない、微量だが魔力を帯びている。道具屋にあった標本と同じ質感だ」  かつて道具屋の店員として培った、商品の価値を見極める感触。それが、ダンジョンの地層に埋もれた鉱石を掘り出すたびに研ぎ澄まされていく。自分は暗闇の中でも、石の硬度や価値を指先だけで判別できるようになった。  さらに、季節ごとの野草の採取もまた、自分にとっては完璧なルーチンとなった。春の芽吹き、夏の湿り気、秋の乾燥、そして冬の凍てつき。それぞれの季節に合わせて姿を変える薬草を、自分はすべて記憶し、その時々の最適解を弾き出す。  「本当によく見てるね。それに、最近の突き……随分と力強くなった」  ダラーはそう言って、満足げに微笑む。その言葉が、自分のすべてだった。  かつてカウンターの裏側で、客の視線に怯えていた自分はもういない。上昇した腕力を操り、技を磨き、今の自分はダンジョンの深淵で最も効率的な解を見出す「一人前の冒険者」だ。  自分が鉱石を掘り当て、季節ごとの薬草を完璧な状態で採取するたびに、ダラーの「効率」は加速する。自分は彼女の仕組みを潤滑にするための、最も精巧なパーツとして磨き上げられていった。彼女が喜べば、自分の人生の価値も上がる。この雪の中で、自分たちは互いに互いを完成させるパズルのピースのように、完全に噛み合っていた。