第26話:始まりの迷宮へ
「次、左の群れを引き抜いてこい! 遅いぞ、餌!」
怒号が飛び交う中、自分は敵の群れをなすりつけられ、ただただフィールドを疾走する。
後衛の魔法が周囲を焼き払い、自分はヘイトを維持する間もなく、また次なる「獲物」を釣るために走る。これが本当にダラーの言った「タンク」なのだろうか。ただの囮として使い潰され、傷だらけになって報酬をもらうだけの毎日。
自分の中で、タンクという役割の意味が泥のように濁りきっていた。
そんな時、掲示板の隅で古びた募集要項が目に止まった。
【募集:騎士団墓地ダンジョン攻略@盾1】
息が止まった。
その場所は、かつてダラーと共に毎日通った場所だ。
暗い通路、冷たい石壁、彼女が杖の先で描いた魔法陣の輝き。二人で肩を並べ、彼女が「理」を語り、自分がその横で槍を握っていた、あの眩い日々。
他の募集にはない、奇妙な懐かしさと切迫感が胸を突く。
今の自分にとって、効率だけを求める野良パーティーは、まるで毒のように心を蝕んでいる。だが、ここなら。あの場所なら、自分がなぜ盾を持っているのか、彼女がなぜ自分に「タンクになれ」と呪いをかけたのか、その答えが眠っている気がした。
「……ここに行こう」
今の自分は器用貧乏で、ただの消耗品に過ぎない。けれど、彼女が教えてくれた立ち回りの基礎や、騎士団墓地というダンジョンの特性を知っている自分なら、この募集に応える意味があるかもしれない。
誰の指示も待たず、自分は震える手で募集の用紙に指をかけた。
報酬のためではない。もし、あの場所に行けば、彼女が教えてくれた「理論」が、ただの呪いではなく、救いへと変わるかもしれないという、淡い期待を抱いて。