第10話:再びその手に
大盾を失ったままの戦いは、文字通り肉体を削る荒行だ。 自分たちは路銀と名声を稼ぐため、薄暗い地下区画で1mを越すネズミ狩りを続けていた。本来なら強固な金属で受け止めるべきネズミの突撃を、今は腰の鉄剣の腹と、限界まで張り詰めた己の腕力だけで強引にねじ伏せている。衝撃がダイレクトに手首や前腕の筋へと伝わり、激しい痛みが走る。だが、自分が一歩でも退けば、このハントは成立しない。
背後にいるメーヴェもまた、愛用の双剣を失い、手元には弓しか残されていない状態だった。 前線で敵を抑える人間がいなければ、矢を射る場所すら確保できない。だからこそ、自分たちの連携には一瞬の迷いも許されなかった。 自分が腕力に物を言わせ、押し寄せるネズミの群れを強引に壁際へと固定する。そのミリ単位の隙間を狙い、メーヴェは至近距離からでも正確に弓の弦を弾き、容赦なく敵の急所を射抜いていく。言葉の合図など必要ない。自分が耐え、彼女が射落とす。双剣を失った彼女の弓を腐らせないために、自分はただ泥臭く敵をねじ伏せ続けた。
この執念に満ちた二人だけのチームハントは、確実に成果を上げていった。積み上がった討伐実績は、やがてギルドを通じて街の鍛冶屋の耳にも届く。 「実績もねぇ奴に、俺の打った鉄は渡せねぇ」と鼻で笑っていた頑固な親父も、自分たちが稼ぎ出した名声を前に、ついに観念したように店の奥の棚を開けた。
カウンターに置かれたのは、ずっしりとした重みを持つ分厚い「大盾」と、刃こぼれ一つない業物の「双剣」。 大盾のベルトを腕に締め直すと、懐かしい鋼の冷たさが全身を引き締める。隣では、メーヴェが取り戻した双剣の感触を確かめるように、嬉しそうに静かに刃を引いていた。 装備は戻った。実力も名声も、この手にある。行くべき場所は一つ。自分たちの始まりであり、すべてが崩壊した因縁の場所――サーカス跡地だ。