第17話:知識を紡ぐ者
墓地での稼ぎが一定の額を超えた頃から、ダラーの行動に変化が現れた。 彼女は以前ほど頻繁にダンジョンへは入らなくなり、代わりに街の図書館へ足を運ぶ時間が増えていった。
「ナノ、もっと上の効率を目指すなら、知識という『仕組み』が必要なのよ」
彼女はそう言って、自分には理解しきれないほど高度な魔導書や、古ぼけた戦術書を読み漁り始めた。 そして驚いたことに、彼女は自分自身で書籍を書き始めたのだ。墓地で自分たちが実践してきた効率的な戦術、デバフの重ね方、そして資源の管理術。それらを一つの「体系」としてまとめ、この土地で自分たちが積み上げてきた技術の完成形を残そうとしているのだ。
ダラーは、騎士団墓地を攻略しようとしているようには見えなかった。 通常、ダンジョンに挑む冒険者は、攻略の効率を上げるために他の戦士や魔術師を募り、パーティを組む。だがダラーは、一度たりともパーティを募集しなかった。 それどころか、他の冒険者が近くに寄ってきただけで、顔をしかめて小声で毒づく。彼女にとってこの墓地は、誰かと競う場所ではなく、自分たちだけで完結させる「庭」だった。
ある日の午後、執筆の手を休めた彼女が、少し悪戯っぽい笑みを浮かべて自分に言った。
「ねえナノ。私が中身を書くから、ナノは私専属の絵描きなってよ。この本の表紙を描いてほしいの」
絵描き、という言葉の響きに戸惑う自分に、彼女は続けた。 「あんたのその『観察眼』は、素材を見分けるだけじゃもったいない。物事の本質を捉えて、美しく配置する才能があるわ。私の理論に、あんたの絵を添えて。二人で一冊の本を作るの。素敵だと思わない?老後の稼ぎにもなるわ」
冗談混じりの口調だったけれど、その瞳は本気だった。 自分は、彼女の書く言葉にふさわしい「外見」を作るために、今度はペンを手に取った。 槍を振るい、薬草を摘み、鉱石を掘り出す。そのすべてが、今度は一枚の絵を構成する線へと変わっていく。
自分が彼女の戦術を具現化する「槍」であると同時に、彼女の思想を彩る「意匠」になること。 その新しい役割が、自分の中にまた一つ、病的なほど深い充足感を与えていた。